【anyレポート】第六弾は、「法人共創パートナーに見るメリット」をテーマに執筆します。
我々がanyとManyといったサービスを運営できるのは、共創パートナーがいてこそである。これから更なる規模拡大、そしてクオリティーの向上をする上では、さらに多くの共創パートナーが必要となる。本記事は、法人共創パートナーがanyに参画することで得られるメリットの一部を紹介することで、今後の共創を通じた多くの価値創造のある種の布石を作ることを目的としている。以下では、このようなことを論じる。
1. anyとManyの概要
2. anyへの参画が人的資本投資の開示にもたらすメリット
3. anyとの共創が人的資本の育成にもたらすメリット
1.anyとManyの概要
まず、anyとManyの概要を説明する。anyは参加者を集い、定期的に提供されている三段階の無料カリキュラムである。第一に参加者間でのディスカッションを行い、第二に1回60分の1対1のメンターワークアウト、第三に再度参加者が集いディスカッションを行う。一貫して、自分軸の明確化を目標としている(自分軸が何であるかの詳細は、過去のレポートを参照されたい)。このシンプルなカリキュラムの背後には多くの工夫があり、その結果、従来のメンターサービスやディスカッションの機会とは異なる価値を創出している。
新しく始動したManyは、「コミュニティを超えた集い」として、anyの参加生が集まる場として提供している(現在は、any参加生限定のDiscordサーバーを運営している)。Manyは大きく2つのことを目的としており、1つはコミュニティに所属するメリットである安心と成長をもたらすこと、もう1つはコミュニティを超え次世代と企業、そして社会の接点となることである(Manyに関しても、より詳しくは以前のレポートを参照されたい)。そのため、法人共創パートナー企業へのインターンの機会、ディスカッションイベントの機会などを提供する。
2.anyへの参画が人的資本投資の開示にもたらすメリット
人的資本投資の重要性が注目され、その開示への取り組みも推進されている。表1にその顛末をまとめているが、極めて重要であるのが上場企業を中心に有価証券報告書に人的資本の情報記載が義務付けられることであろう[i]。このような、人的資本の情報開示が求められている背景には、無形資産の重要性の高まりがある。「企業価値の決定要因が1990年代以降に無形資産へとシフトし、(中略)ど真ん中にあるのが人材」[ii]と一橋大学の名誉教授である伊藤邦雄氏は述べている。1994年に、ハーバード大学ビジネススクールが従業員の満足度を高める取り組みが企業価値向上の源泉であると示し、時を超えて2018年ではLink and motivationの研究機関が従業員エンゲージメントの向上は営業利益率と労働生産性にプラスの影響をもたらすと示している[iii]。このような重要性は企業の資産の在り方から見て取ることができ、2015年から「S&P500」の市場価値の構成要素において、無形資産の割合が8割を超えており[iv]、1975年の17%から大きく上昇している[v]。日本においては、企業の情報開示において、非財務KPIが占める割合さらに人的KPIが占める割合も増加傾向にある[vi]。実際に、人的資本の活用は株価に好影響を与えると示されている[vii]。
その結果、企業がいかに人的資本に関連した取り組みを行っているかに、ますます投資家が着目するようになっている。しかし、例えば企業がいかなる人的資本を抱え、成長させているかは財務諸表の数値だけでは読み取れず、非財務情報の開示が必要とされている[viii]。このことを裏付けるように、morrow sodali Japanは主要機関投資家42社に対して調査を行い、95%の投資家が「ESG関連リスク・機会を考慮する重要性が高まった」と答えと示したうえで、機関投資家に企業を分析するための非財務情報の開示の必要性を指摘している[ix]。加えて、人的資本への注目の背景に無形資産への関心があり、機関投資家が企業業績と同等以上に人的資本の開示に着目するという主張もある[x]。他にも、働きやすさに注目した投資信託「働きやすい企業戦略」の運用においては、働きやすさの指標が好スコアの銘柄約250に投資するとしている事例や[xi]、日興アセットマネジメントが新ファンド「日本株人財活躍戦略」を運用し「人への投資」に優れた企業に数中投資するという事例が存在する[xii]。このような、人的資本に投資している企業に注目し、そこに資金が集まるという流れは更に高い加速度で進んでいくだろう。
[i] https://www.iso.org/standard/69338.html [ii] https://project.nikkeibp.co.jp/HumanCapital/atcl/column/00008/100700001/ [iii] https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_1.pdf
[i] https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA024U80S2A500C2000000/ [ii] https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/01259/?%20i_cid=nbpnb_tobira_221024_5 [iii] https://www.sonposoken.or.jp/reports/wp-content/uploads/2022/07/sonposokenreport139_2.pdf [iv] https://kenkokeiei.mynavi.jp/step/20221031-2/ [v] 「内閣府 知的財産戦略推進事務局 構想委員会 資料」 (https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kousou/2021/dai3/siryou2.pdf) [vi] https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_3.pdf [vii] https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/01258/?P=6 [viii] https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA024U80S2A500C2000000/
[ix] https://mikke.g-search.or.jp/QTKW/2022/20220122/QTKW20220122TKW016.html [x] https://mikke.g-search.or.jp/QTKW/2022/20220122/QTKW20220122TKW016.html
[xi] https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB148MT0U2A910C2000000/ [xii] https://www.nikkei.com/article/DGKKZO63255740X00C22A8MM8000/
2.1人的資本投資の開示に潜むチャンス
このようなトレンドが顕在化する中で、企業はどのように対応しているのだろうか?実のところ、急激に集まっている注目とは裏腹に、実際の施策には中々結びついていない現状が垣間見える。まず、急上昇している人的資本への注意であるが、例えば、日本の上場会社のCFOに対するアンケートの結果77%が人的資本が大きく企業価値に影響すると考えている[i]。また、パーソル総合研究所の調査によると、「人的資本経営」の概念に対する理解は高く、約75%である[ii]。このような注目は、上場企業だけでなく非上場企業でもあり、上場企業は投資家による評価などの外的要因によって人的資本に注目し、非上場企業は直接的な経営効果のために人的資本に注目しているという違いがありながらも[iii]、共に高い関心を示している[iv]。
しかし、このように注意が高まる一方で、実際の施策は滞っている。例えば、上記のパーソル研究所の調査では、具体的な指針への理解は低いことも示されている。また、2022年9月時点では、「正直、情報収集すら手が回っていない」や「どの程度まで書くべきかわからない」などの声も見られる[v]。その他にも、次世代リーダーの育成を最大の課題とし、人的資本の情報開示に向けて何を行えばよいか戸惑う企業も多いとする主張もある[vi]。このような難航や戸惑いはデータにも表れており、日本の上場・非上場企業249社のうち、人的資本の情報開示を継続中・開始した企業は合わせて2割弱であるという調査結果が報告されている[vii]。より、細かい項目においては、女性管理職比率などは比較的よく開示されているが、2021年の統合報告書を発行した718社においては、従業員エンゲージメントは2割程度、離職率はより低く6%にとどまっている[viii]。この背景には、これまでの日本の経営慣行による硬直性があると考えられる。実際に、学習院大学の宮川教授の研究によると日本企業が人材の能力開発に投じる費用が低いことが示されている[ix]。
以上のような状況は、チャレンジでもチャンスでもある。つまり、注目しているにも関わらず開示が進んでいない状況を鑑みるに、開示の実施には相応のハードルがあるのだろう。その意味において、多くに企業は困難なチャレンジに面している。その一方で、投資家や他企業による意識が高いにもかかわらず、実行に踏み切れていない企業が多い中で、開示の実施というチャレンジを克服した企業は、克服できなかった企業に対して先行者のアドバンテージを得ることができる。
[i] https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/wgkaisai/hizaimu_dai6/siryou2.pdf [ii] https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/assets/human-capital.pdf [iii] https://news.yahoo.co.jp/articles/90d032b04526a46ada1ce2acc2210d1087f035b3 [iv] https://riskdesign.jp/column/2212-3 [v] https://www.nikkei.com/article/DGKKZO64672260X20C22A9EE9000/ [vi] https://hrzine.jp/article/detail/4448 [vii] https://news.yahoo.co.jp/articles/90d032b04526a46ada1ce2acc2210d1087f035b3 [viii] https://www.hrpro.co.jp/trend_news.php?news_no=2062 [ix] https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB122A20S2A410C2000000/
2.2 anyが解決する3つの課題
我々が提供するanyへの協賛は、このチャンレジを克服し、チャンスをつかみ取ることへと直接的につながる。克服しなければいけないチャレンジで代表的なものとして、データの統合や収集が間に合わないこと、集まってどのように開示すればいいかわからないこと、そもそも人的資本経営を推進するための意識がないことが挙げられる。実際に、「『人的資本経営』に関する実態調査」によると、課題を抱えてると答えた人事の内、48.3%が「散在している人事データ等の統合が難しい」、47.1%が「人的資本の開示をどのようにしたら良いかわからない」、44.8%が「経営陣の意識変革が難しい」と回答した[i]。この3つの課題の解決にanyへの協賛はいかに貢献するのだろうか? [i] https://www.hrpro.co.jp/trend_news.php?news_no=2062
2.2.1データの収集と統合
まず、データの収集と統合に関してである。確かに、データを整備し、収集し、統合し、外部に公開するのは中長期的には重要である。しかし、現在の人的資本への投資の意識の高さと実際の開示とのギャップを活かすには、データで固めた厳密な開示の前に、価値がありながらも高いスピードで開示できる実績が必要である。なぜなら、完全なデータができるまで開示を延期することは、他企業と足並みをそろえて人的資本への投資の開示を行う準備をすることを意味し、開示が実施できていない企業が多いというチャンスが消えるまで待つことになってしまうからである。データの収集と統合という課題に対しては、斜めからの解決という方針ではあるが、そもそも包括的にデータを揃えなければ人的資本投資の開示ができないという前提を変えることによる解決である。このように、異なる前提に立つことでこそ、人的資本投資の開示競争におけるアドバンテージに立つことができるだろう。現に、先駆的に人的資本投資の開示を行っている企業には、このような取り組みをしている企業が散見される。例えば、中外製薬の社員のデジタル・スキルレベルに応じた教育プログラム、オムロンの社内表彰制度、双日の独立・起業支援制度、東京海上HDの対話を促す場の設置[i]、損保ジャパンのZ世代育成プログラムなどである[ii]。 [i] https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/wgkaisai/hizaimu_dai6/siryou2.pdf [ii] https://www.sompo-japan.co.jp/-/media/SJNK/files/news/2022/20221019_2.pdf?la=ja-JP
2.2.2投資の有効な開示
次に、人的資本の取り組みの開示方法に関してである。この課題にanyが解決する理由は、「なぜ、多くの機会がある中でanyに協賛するのか」という疑問に答えるものである。昨今では、人的資本投資の開示のおいて、3つの重要な点が挙げられており、anyの取り組みはそれら対応することができる。それが、比較可能性、独自性[i]、そしてナラティブである。まず、比較可能性に関して、外部で設定されている基準と対応関係を持っている必要がある。anyに関しては、表2にある通り、多くの項目と対応している。この「比較可能性」は同時に、協賛してくれる企業様への直接的メリットを保証する部分でもある。
独自性に関しては、ただ既定の開示標準に従って行うだけでは不十分であり、企業戦略と整合性があり、他企業と差別化ができる独自の取り組みが必要とされている。anyは「イノベーションを起こそうとする企業」の戦略と深くかかわっている。産業組織論において企業の外部環境の重要性を提唱するSCPモデルが発展した20世紀前半から、1981年にマイケル・ポーターが経営学に産業組織論の知見を持ち込み[ii]、現在に至るまで企業がどのような外部環境に接しているかが重要視されてきた。それは、労働市場も例外ではない。その意味において、どれだけイノベーティブな人材が労働市場にいるかは、イノベーションを起こそうとしている企業にとっては重要である。そして、今日本ではイノベーションを通じた社会課題の解決が必要とされており[iii]、経済を牽引するのもイノベーションとも考えられている[iv]。そのため、多くの企業にとってイノベーティブな人材が多い労働市場に面していることが重要であり、日本の労働市場によりイノベーティブな人材を増やすことは企業戦略にとって重要である。anyは各個人の「自分軸」を明確にし、画一化された軸ではなく個々で異なる軸を持つことを支援することで、多様性と自律的行動を促し、結果的にイノベーションに寄与する。つまり、anyはイノベーティブな人材を産出するのである。
さらに、anyは人的資本を社会全体が共有している、共有資本として考えている。そのため、企業は企業内の人材ではなく、企業の属していないプレ社会人の育成に対して投資をすることとなる。これが、他の人的資本投資と大きく異なる点である。また、異なるだけではない。無形資産の性質と現在の労働のトレンドを考慮すると、合理性もある。無形資産の1つの特徴としてスピルオーバー(波及効果)がある。無形資産は目に見えないからこそ、様々な目に見える目的に寄与する。スピルオーバーはそれをさらに拡張し、無形資産への投資は、他の主体の利益ともなることを説明する。例えば、人的資本への投資で、よりモチベーションの高い個人を育成できたとして、そのモチベーションの高い個人から利するのは育成を行った企業ではなく、その個人が関わるあらゆる企業である。それが、協力先でもあるかもしれないし、その個人が次に属する企業かもしれない。いずれにせよ、投資することと、その投資結果の利益を独占することが単純にイコールであるという論理は、無形資産には適応されない。これは、キャリアが多様であり、個人が一生の中で様々な企業と関わる時代[v]ではさらに加速する性質である。以上より、もとより無形資産の効果は独占できるものではない。そのため、企業内で人的資本への投資を行うのも有益であるが、anyが行うような企業に密着していないソフトスキルの育成はむしろ、企業慣習や企業文化に触れ、染まっていない段階で行うのが重要なのである。
最後に、人的資本投資の開示において、単にデータや取り組みを紹介するのではなく、その背後の意図や価値を説明する「ナラティブ」が必要とされている[vi]。企業の情報開示において、ナラティブを提供することは、企業の実態に迫ることに貢献し、近年では経営者自身の言葉でナラティブを語るケースも見られるようである[vii]。これは、ナラティブが企業の理念や存在意義、戦略、そして開示されるデータの関係性について説明するからであり、データが整備されている大企業においても開示の際の課題となっている[viii]。実際に、「なぜこの項目を開示したのかという理由や背景を説明できなければ、投資家からの共感と支持は得られません」とされ、人的資本への投資が長期的な視点を含むものであるからこそナラティブが重要視されると述べられている[ix]。加えて、コンプライアンスなどにおいて、ボイラープレート化(定型文化)が起きているという観点でも[x]、人的資本においてはナラティブの展開が重要である。
以上のような重要性をもつナラティブの展開において、anyは既に人的資本投資の開示を行っている企業、これから行う企業の双方に貢献する。anyは「ソーシャル・ビジネス」として、社会貢献を目指して活動している。個人のレベルでは自己理解、自己肯定間の向上、集合レベルでは多様性の受容、モチベーションの向上、キャリアにおけるよい意思決定、社会レベルではミスマッチによる離職の低下、イノベーションとサステイナビリティ、そして次世代の育成という貢献をする(詳しくは、以上のことを定性データから論じた以前のレポートを参照いただきたい)。既に人的資本投資の開示を行っている企業には、データにナラティブを加えるためのベンチマークとなる。つまり、自らが実現したい社会に合わせて、「any」という事例をフレーミングし、ナラティブにおいて重要な「具体的な基準」となり得る。そして、これから人的資本投資の開示を行う企業に関しては、スピーディな人的資本投資を行うと同時に、きちんと背後にはナラティブがあることを示すことができる。
このような取り組みは、人的資本投資の開示にも寄与するが、インパクト投資などの注目を集めると考えられる。インパクト投資とは、社会的なインパクトを創出するために、投資がどの程度課題解決に寄与しているかの検証も行いながら行われる投資である[xi]。日本国内では世界と比べてその規模は小さいものの、2020年から2022年にかけて2.9倍と投資額が増加している[xii]。
[i] https://www.jmam.co.jp/hrm/column/0082-jintekishihon19.html [ii] https://www.kaonavi.jp/dictionary/jintekishihonkaiji-gimuka/ [i] https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf [ii] https://dhbr.diamond.jp/articles/-/4674?page=3 [iii] https://www.mri.co.jp/news/press/20220421.html [iv] イノベーション・マネジメント入門 第2版(一橋イノベーション研究センター, 2017) [v] LIFE SHIFT(ライフ・シフト)(Gratton & Scott, 2016) [vi] https://kinzai-online.jp/node/9677 [vii] 企業開示に求められるナラティブ 「物語」の力で真実の姿を理解してもらう [viii] https://diamond.jp/articles/-/317603 [ix] https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/column/202302070001.html [x] https://www.camri.or.jp/files/libs/1726/202201051519197756.pdf [xi] 戸田満., 佐々木喬史., 織田聡. (2022). 日本におけるインパクト投資の現状と課題 -2021年度調査-. 一般財団法人社会変革推進財団(SIIF). インパクト投資、日本のスタートアップに新風. (2023, 2 3). 日経速報ニュース. [xii] インパクト投資、国内3兆円超 昨年9月時点、社会課題解決に資金. (2023, 1 14). 日本経済新聞 朝刊, p. 11.
2.2.3 人的資本経営のための意識改革
人的資本の開示を行うためのサービスが増加する中で、人的資本経営に対する意識という課題は依然として残る。例えば、オンラインツール「Wevox」は、挑戦心などの従業員の心理的状態をエンゲージメントとしてスコア化することが可能である[i]。しかし、そもそも指標を利用する企業で、人的資本経営への理解が社内で、特に経営陣になければ人的資本の取り組みはもちろん、有効な開示が進むことがない。逆に、経営者が推進することで人的資本の開示が成功した事例が見られる。例えば、伊藤忠商事は、CEOのメッセージを中心として開示を進めており、トップの強いコミットメントによって現場も非財務情報の開示に積極的になっているという[ii]。
anyは意識改革に2つの方法で貢献する。変革を起こす取り組みの多くは、スカンクワークから始まるという。スカンクワークとは、「社員が本来やるべき業務以外の自主的活動」であり、業務外での小さな取り組みを実施し、実績を重ねることで会社全体へと拡大する。anyという取り組みを行うことが、意識改革の契機となると考えている。
そして、より重要でanyに特有の点として、直接キャリア意識の変化に触れ続けることができることがある。人的資本経営に取り組まなければいけない理由として、キャリアの在り方、キャリアに対する意識の変化がある。その変化を肌で感じ取り、主体的に変化できるよう取り組まなければいけないという意識を生み出す必要がある。しかし、「意識」は「情報」ではなく、キャリア感が変化しているという情報は人を動かさない。むしろ、顔を合わせ、同じ目線でディスカッションをし、感情に触れ共感すること意識変革が起きる。anyはこのような場を継続的に提供し、人的資本経営に根本的に必要である、意識変革をもたらす可能性を秘めている。 [i] https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/01258/?P=6 [ii] https://mikke.g-search.or.jp/QTKW/2022/20220122/QTKW20220122TKW016.html
3. anyとの共創が人的資本の育成にもたらすメリット
さて、ここから先のセクションでは、anyがいかに人的資本に貢献するのかを説明する。このセクションには複数の意義があり、第一に表2にある、anyの取り組みと人的資本への投資の項目との対応関係を説明することである。第二に、anyへの協賛が、単に募金のような社会貢献活動ではなく、むしろ企業側にもメリットをもたらしながらも、人的資本経営寄与するという点を示すことがある。第三に、anyへの協賛が、人的資本投資の開示という短期的なメリットをもたらすだけでなく、人的資本経営に寄与し、中長期的なメリットをもたらすことを示すことがある。そして最後に、anyに協賛するにあたって、多様なナラティブのもとで協賛できること、多様なメリットを得るための機会を設定できることを示すことがある。
3.1 次世代に選ばれる企業へ
就職市場では、従来より情報の非対称性が問題とされてきた[i]。採用者は、就職者の真の特性や能力、考えを推し量ることは困難である。同様に、就職者の企業の情報は限られている。そして、就職者と企業の情報は、特にネガティブな印象を受けるものが秘匿される傾向にある。この状態は就職者と企業の自然な防衛行動の結果であるものの、企業と人材のミスマッチの巣窟となっている。さらに、情報は暗黙性を持ち、粘着性も持つ。つまり、仮に情報を秘匿しているわけでなくても、言葉にして明確に伝えられないことも多く(暗黙性)、情報移転にコストがかかることも多いだろう(粘着性)。当然ながら、このような情報の非対称性や暗黙性、粘着性は企業説明会のような短時間で、一方通行の情報のやり取りで解消することはできない。では、より密なやりとりが生じる、面接やインターンはどうだろうか。極めて頻繁に実務会で利用されている現状と裏腹に、面接やインターンを通じて、その企業で高いパフォーマンスを発揮できるかを予測することは難しいとわかっている[ii]。
加えて、就活生の事情を考えるとなお、この問題の解消は困難となる。就活は早期化しており、十分に自らの道を考えるための時間もなく、就活の競争へと投げ出される。就活で典型的である、自己分析、企業研究、インターン、面接などの選考、就職というプロセスは、内定をもらうことが最優先の目的となって行われる。それは模索プロセスと言うよりはむしろ、内定という旗を取るために、ただ各ステップを処理しているような状況であるともいえる。例えば、インターンは自らがマッチするか、その企業がどのような企業であるかを見るための重要な場であるにも関わらず、多くが内定を得るため、あるいは企業からの評価を獲得するための実績とするためにインターンを行い、仮説検証を繰り返し情報を得ることが行われていないのが、「any」参加者に対するインタビューより見て取れる。
そんな中で、「次世代に選ばれる企業」は、有効なシグナルを通じて次世代に情報を伝えた企業、そして情報を超えたやり取りを通じて共感を与えた企業である。「any」というプログラムの延長上にある「Many」はその場を提供し、「就活と言う軌道から外れて、学生との接点を持つこと」を可能にする。
企業との接点を生み出す従来のサービスは「就職」というコンテキストの中で行われ、就活をするつもりでそのサービスを利用し、その結果企業にとってはいくつかの不具合が生じる。1つには、次世代が企業の本音や風土を理解することができないことがある。企業から提示された情報を割り引いて捉えるしかできず、企業は次世代に自らの情報を効果的に伝えることができない。ましてや、共感をまねくことは困難である。その一方で、企業内部の方と直接ディスカッションを行うことで内部の声や企業の実際を知ることができるだけでなく、どのような人がいるのか、どのような風土なのか、どのような考え方が支配的であるのかを肌で感じることができる。2つには、次世代の本音を理解することができないことがある。面接ではもちろん、就活のコンテキストでの企業と次世代の接点の多くは、基本的に次世代の「タテマエ」の上で進む。そのため、本当に次世代が企業に何を求めているのか、本当に企業にマッチするのかを理解することが困難である。以下では、次世代が企業を理解するためのanyが提供するシグナル、そして企業が次世代を理解するためにanyが提供する機会を紹介する。 [i] 入山章栄. (2019). 世界標準の経営理論. 渋谷区: ダイヤモンド社. [ii] Schmidt, F. L. (2016). The Validity and Utility of Selection Methods in Personnel Psychology: Practical and Theoretical Implications of 100 Years of Research Findings. Working Paper, 1-73.
3.1.1 社会課題への取組み・次世代を理解しようとしている
まず、次世代にとって、企業が社会課題に取り組んでいることの重要性は高まっている。anyと協賛していることは、社会課題に貢献しているというストーリーを次世代に伝える。それだけでなく、次世代育成という社会貢献であるため、当然ながら当事者である次世代は好意的な印象を受ける。次世代は往々にして、企業内で地位が高い人が自らに大きな関心は抱いておらず、自らを理解していないということを考える。そのため、次世代支援に取り組んでおり、次世代を理解しようとしていることを示す取り組みには好印象を抱くと考えらえる。
3.1.2 成長機会があること
また、以下で説明するように、anyでの次世代との設定は、企業内の人材の成長機会をもたらすものである。そのため、anyは次世代と社内人材の両方を支援するものである。その特徴があるために次世代は直接、企業が社内人材に成長機会をもたらしていることを見て、感じ取ることができる。
なお、社会課題への取り組み、成長機会があることは今の若者にとっては非常に重要なようである。企業のランキングを若者への調査を通じてつけたレポート8つのうち[i]、5つは成長機会があるために企業のランキングが高くなり、4つは社会貢献をしているから高いランキングがついている。これは、安定性や柔軟な働き方、好きなことであることよりも多く言及されていた。 [i] https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1905/24/news100.html https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1903/18/news098.html https://doda.jp/guide/popular/ https://diamond.jp/articles/-/248086 https://toyokeizai.net/articles/-/651532 https://news.mynavi.jp/article/20221214-2536869/ https://re-katsu.jp/career/contents/ranking/index.html https://career-research.mynavi.jp/reserch/20210426_8553/
3.1.3 次世代を理解する
前述の通り、企業は次世代の本音を聞くことが難しい。そのため、本当に何が求められているのか、どのような人事・採用施策を打てばいいのか、どのような会社にしていけば次世代に求められるようになるのかを、過去の基準で考えていることがある。
anyは、自らの軸を見つけるために参加した参加者との接点を持つ機会を提供する。自らのことを話し、自分軸のことをオープンに話す経験を得た上で、企業と「就活の軌道上にはない接点」持つことは、次世代の本音を聞くことができる稀な機会である。さらに、ただ話を聞くのではなく、同じ目線で議論をすることは、いわゆる後述する「知的コンバット」の実現をもたらし、より深いレベルの理解をもたらす。
3.2 次世代を活かせる企業
人材開発サービス「ビジネスコーチング」では、従業員規模1000人以上の企業の出身者や、経営者や役員、部長の経験者をコーチ都市、1対1で話す機会を提供している。このサービスは人的資本強化の中で法人顧客が340社ほどに増加した[i]。
anyは同様に、話す機会を提供するが、上記サービスのように「過去から学ぶ」のではなく、「未来を学ぶ」ことに焦点を当てている。つまり、anyにいる多様な次世代の若い人材と触れ、同じ目線でディスカッションすることで、次世代が察知している新しい情勢や世のトレンド、新しい考え方を拾い上げて成長するのである。この影響は多岐に渡り、人的資本投資の開示項目における「スキル/経験」、「人材育成(一言に行っても、様々な類型があって、そのどこに、今言っている人材育成とはやや異なるのではないか)」、「非差別によるダイバーシティ」などの直接的な成長はもちろん、「サクセッション・後継者計画」、「リーダーシップ」など次世代から得られた知識を応用すること、「エンゲージメント」、「精神的健康(もっと出してもいいかも-人とのつながりによる幸福)」、「生産性」などモチベーションに関連する項目にも影響を及ぼすと考えている。
anyにおいて多様な次世代人材から学べる知識には3つの特徴がある。1つ目は、社外の知識、さらにはプレ社会人の知識であること。イノベーションは辺境からくるという言葉があるように、経営学では既存事業領域から離れた領域の知識がイノベーションに、自らとは異なる環境にいる個人からの知識が創造性に繋がることが示されてきた。自らの会社、さらにはそもそも企業の論理にとらわれることとのない目線は、新しい視点を既存の論意にもたらす。2つ目は、多様な知識である。これは次世代であるためというより、anyに多様な国、考え方、バックグラウンドの個人が集まるためである。多様な考えに触れ、視野を広め、新しいインプットを得ることができる。3つ目は、暗黙的な知識である。これも、anyの特徴であるが、本音で、対等なディスカッションを行うことで言葉上の情報だけでなく、より深く感じている暗黙知も伝えあうことができる。これは、いわゆる主観と主観とを徹底的にぶつけ合う「知的コンバット」である[ii]。以上のような知識は直接的な成長、知識の応用、モチベーションへの効果という形で共創パートナーに貢献するだろう。 [i] 10月20日上場、ビジネスコーチ、コーチング、顧客に合った人材をマッチング [ii] https://coach.co.jp/interview/20200128.html
3.2.1 直接的な成長
近年では、組織の枠組みを超えて従業員が学習することが期待されている。例えば、越境学習と呼ばれる、居心地の良い「ホーム」から離れ、その刺激によって学習するという概念がある。越境学習では、異質な人の協働などを通じて「常識」が打破されると論じられている。組織で支配的な常識は当然視され、その結果その常識に反する外部の知識を吸収しなくなることは多い。越境学習は、このような常識に疑問を持つきっかけとなり、外部の知識を吸収するようになる[i]。副業が着目されていることも、同様の論理が背後にはあるだろう。
anyは「若者との接点」という形で学習を促す。現在、若者から学ぼうとしている大人は約2割程度であるとされている[ii]。しかし、まだ企業に属さず、ある意味で社会の常識に染まっていない若者から学ぶことは多いだろう。実際に、意見が正しいか否かに関わらず、多数派が持つ意見と異なる意見があるだけで、全体の意思決定の質が高まる[iii]。意見の多様性が、意思決定の質を高めると言い換えてもいいだろう。他にも、IMDの教授であるジェニファー・ジョーダンは「影の取締役」や「リバースメンタリング」などの言葉を挙げ、若者から学ぶことの効果を論じている。企業文化の変革への効果があると論じ、例えば化粧品大手エスティローダーはリバースメンタリングによってソーシャルメディア上のインフルエンサーの重要性について学ぶことができたようである。他にも、マイノリティへの理解を深めるためにリバースメンタリングを導入している企業もあると論じている[iv]。anyには優秀な若者に加え、多様なバックグランドをも言っている若者(起業を目指しいてる方、留学経験がある方がanyには多い)が集まっており、以上のような効果が期待される。 [i] https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaden/26/1/26_73/_pdf
[ii] https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000000678/?theme=starter
[iii] ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代 (Grant, 2016) [iv] https://dhbr.diamond.jp/articles/-/6286
3.2.2 得られた知識の応用
このように知識や刺激を若者から得ることで意識が変化する等の直接的な成長が促されることは大きなメリットである。しかし、若者との接点や、若者のインターンシップは実際の企業の施策にも貢献するだろう。例えば、前述のIMDの教授であるジェニファー・ジョーダンは、様々な規模と業種の企業を、欧州、アジア、アフリカ、米国で研究し、若手を取締役における意思決定に関わらせることの効果を検証している。その結果、若手社員や顧客にとって重要な取り組み検証できること、社内での異なる世代の社員間のギャップを効果的に埋めることなど、人事施策上のメリットを挙げている[i]。このように次世代の人材がどのようなことを考えているかを知ることは、当然ながら、次世代のリーダー、後継者を育成する上で重要である。
他にも、若者視点がビジネスに貢献する例は枚強にいとまがなく、その効果は一時的なイベントという接点において、さらにはインターンシップという継続的な接点においても実現できる。例えば、東北大学は学生視点で企画を立ち上げ、SNSを活用した広報を促すために、学生を広報スタッフに任命している[ii]。新しいSNSに日頃から触れ合っている若者だからこそできることがあるのであろう。他にも「若者消費ラボ」なるものが存在し、若者から構成されたメンバーで、若者視点でのニーズに関するインサイトを企業に提供しているようである[iii]。また、SNSやマーケティングだけでなくSDGsなどに関しても当事者であり、若くから触れ合っている学生から得られることは多いだろう。例えば、「千葉大生と共に考えるSDGsゼミナール」が、京葉銀行千葉みなと本部で開催され、「思ったよりも取り組みやすい施策が多くあった」と企業側からフィードバックが得られた事例がある[iv]。このゼミナールで講師を務めたのは、大学二年生の学生であった。若手視点が役立った例には、枚挙にいとまがなく、「課題解決型インターンシップ」の事例も数多く存在する[v]。インターンシップは、単に企業が学生を評価し、学生が企業を知る場だけでなく、むしろ若者の視点を最大限に活用し、共創を行う場となっているのだ。anyはこのような変化を捉え、共創パートナーとインターンシップを実行し、優秀で多様なany生と企業の共創の実現を可能とする。 [i][i] https://dhbr.diamond.jp/articles/-/8766 [ii] https://www3.nhk.or.jp/tohoku-news/20220907/6000020853.html [iii] https://www.dentsu-pmp.co.jp/solution/wakamonolabo/ [iv] https://www.tokyo-np.co.jp/article/202930 [v] https://www.kouiki-kansai.jp/koikirengo/jisijimu/sanshin/jinzai/internship.html
3.2.3 モチベーション・エンゲージメントの向上
最後にanyがモチベーションやエンゲージメントにもたらし得る影響を説明する。前述の通り、anyを通じた若者との接点は人事施策に影響を与えるため、間接的にモチベーションやエンゲージメントの向上に寄与する可能性を秘めている。しかし、それだけでなく、anyは直接的な影響ももたらす。それは、若者との接点が刺激になるためである。anyを通じた接点は、社内の人材が若者に自らの知識を教えるという側面と、社内の人材が若者から新しい視点を学ぶという側面がある。自らの知識を教えるということは、社内人材のモチベーション・エンゲージメントを向上させる。教えることの喜び、利他の喜びが満たされるためである。しかし、それだけでなく、若者の視点を学ぶということにも効果があるであろう。利他的な個人がいるチームで他のチームメンバーも利他的になることが報告されているように[i]、何らかの大志を抱く人は他の人のパーパスも生き生きとしたものに変えていくとされている[ii]。これは、若者だからということもあるが、主体的に行動し何らかの成し遂げたいゴールを持っている、あるいはanyを受ける中で抱いた個人がanyに多くいるからこそ得られるメリットである。さらに、anyと共創することはある種の人的施策としての社内マーケティングにも役立つ。率先して次世代の力を活かす、そして率先して次世代を受け入れられる企業として、何より若者から知識を吸収しそれを人事施策に活かす企業としての社内マーケティングである。 [i] GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代 (Grant, 2014) [ii] Fuller, J. B., Kerr, W. R., Gulati, R., & Johnson, W. (2022). 「大退職時代」の真実 -労働市場に何が起きているか. Diamond Harvard Business Review, 62-75.
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