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経済、社会、自然環境の持続可能性 –トリプルボトムラインから考える残された課題–




 

はじめに

 近年、かつてないほど、持続可能性(Sustainability)に関心が寄せられている。自然環境や社会に対する影響を顧みない経済成長を問題視し、消費者や投資家が少なからず企業活動と自然環境や社会における課題との関係性に注目している。結果として組織の多くは自らの取り組みが社会や自然環境に及ぼす影響について情報を開示するようにもなっている。

 古くから、どれほど短期の持続性であっても、何らかの形で持続可能性に対する問題意識は存在し、必ずしも持続可能性への関心は近年特有のものではないかもしれない。しかし、持続可能性やサステイナビリティという標語が生み出され、その言葉から連想する時間軸が大幅に長期化された。加えて、これらの言葉には暗黙的に経済の持続性だけでなく、社会全体の持続性や自然環境の持続性という意味も含まれるようになっている。この意味において、現在広く持たれている持続可能性に対する問題意識は、これまでも存在した課題を再定義し、問題化する努力が結実したものでもあるかもしれない。

 結果として、組織の多様な利害関係者が持続可能性に関心を持ち、持続可能性への貢献は場合によっては組織の生存や成長の必要条件となるため、組織が直面する喫緊の経営課題となっている。これは、いわば、持続可能性という長期課題への組織等の取り組みを駆動するために、生存という短期課題へと持続性を変換しているものであるともいえる。例えば、CSRの監視やESG投資などが、この代表例であろう。

 しかし、持続可能性に対する関心や取り組みの一部は、そもそも持続可能性に関する課題を生み出してきた経済偏重の関心や取り組みから、必ずしも大きくは進化していないかもしれない。持続可能性を実現するために社会や利害関係者の期待や要請という組織の短期的課題が生み出され、組織がこれに受動的に対応し(e.g. 環境や社会への配慮)、その対価として自らの特定の活動を抑制する取り組みが散見される(e.g. 効率性や製品の機能性の抑制)。そして、この特定の取り組みの抑制は、新たな持続可能性における課題を生み出し、本当の意味で持続可能性に前進することはできていないかもしれない。

 つまり、本来、持続可能性という長期課題に対応するために、この長期課題を組織の短期課題へと落とし込んだものの、結果的に、長期的な持続性の実現に寄与する取り組みにつながらなくなっている可能性がある。例えば、身近な例として、紙ストローの積極的利用が挙げられるかもしれない。紙ストローの導入は、消費するプラスチックの量を低減させ、プラスチックの廃棄量の低減にもつながる可能性がある。そのため、環境に配慮するという社会や利害関係者の要請に答えるものではあるが、その一方で、長く飲料につけておけないという機能性の制約があり、触感に満足しない顧客もいると指摘されている。果たして、紙ストローという方法で環境問題についての社会の要請にこたえることは適切であるのだろうか。確かに短期的には組織の生存に寄与すると考えられるが、顧客の不満足を前提とした取り組みに果たして本当に長期的持続性があるのだろうか。他にも、近年急速に取り入れられている太陽光発電についても、環境の持続可能性に寄与している一方で、地域の自然における損害や地域住民とのトラブルが頻繁に生じ、また、太陽光パネルの廃棄という新たな問題も生じている。

 このような議論を踏まえれば、長期的持続可能性を短期的課題へと落とし込み、その課題に受動的に対応する現在は、経済成長という短期的課題を解決するために、環境や社会課題への配慮という持続性にかかわる長期的課題を等閑視した過去と、大きな違いはないともいえる。

 以上の議論を踏まえれば、今の組織や個人による取り組みが、本当に持続性を実現するものであるのか、そもそも持続性とはどのように捉えられ、どのようなアプローチを取ることが持続性につながるのか、今一度問い直す必要があるのではないだろうか。特に、持続可能性に対する異なる視点を持つ多様な個人、例えば、持続可能性の問題が所与のものとして存在していた世代や、あくまで新たに出現した一課題として持続可能性の問題がある世代の個人の双方を含む議論が必要であるかもしれない。

 本記事の目的は、一般に用いられているトリプルボトムラインや関連する議論を紹介することで、この世代を超えた議論の土台を提供することにある。トリプルボトムラインはジョン・エルキントン氏(John Elkington)によって提唱され、持続可能性の3つの柱を提示するものである。企業の情報開示の基準となるだけなく、多くの研究や調査で議論の枠組みとして用いられてきており、持続可能性に関連する議論の土台となりうると考えられる。日本の持続可能性を議論するレポートなどにおいても、トリプルボトムラインはしばしば登場しており、本記事ではこの枠組みに基づいて持続可能性の実現において必要とされている事柄を議論する。



枠組み紹介:トリプルボトムラインとは何か

 トリプルボトムラインの枠組みは、持続可能性は自然環境の持続可能性、人間社会の持続可能性、そして経済の持続可能性から構成され、この3つの持続可能性を並立させなければならないと提唱するものである。すなわち、自然資源を枯渇させず、経済資源とそれを通じた価値創造も継続的に実現し、同時に、社会のコミュニティの維持やウェルビーイングの平等な享受が実現され続けられることが持続可能性には必要であると論じるものである。

 トリプルボトムラインはいまや幅広く用いられている枠組みであるが、しばしば企業の情報開示基準として形式的に取り入れ、その本質が見落とされているようにも思える。このことは、ジョン・エルキントン氏がこのような状況を顧み、この枠組みを撤回したことからもわかる。Isil & Hernke(2017)が指摘する通り、トリプルボトムラインは持続可能性に必要とされる条件を分解したものではなく、その枠組みの前提には、経済、社会、自然環境の持続性に向けた取り組みの間に相互を強化しあう関係性を構築できるという考えがある。例えば、持続的な自然環境を確立することで、持続的な経済を実現できる。持続的な経済を通じて、持続的な自然環境や社会を実現できる、などである。すなわち、経済、社会、自然環境の間の関係性にこそ着目しなければならず、持続可能性を部分的課題に分解し、固別で取り組むためにあるものではないと考えられる。むしろ、個別課題として捉えるのは、トリプルボトムラインという枠組みの形骸化につながるものであるだろう。



課題:持続可能性の実現における主要な障壁

 以上のように、トリプルボトムラインの本質は、持続可能性が3つの課題に分けられるということではなく、この課題の関係性と、各課題への対策の並立にあると考えられる。しかしながら、近年の研究では、この両立は必ずしも容易ではないと明らかにされている。


  • 制度論理の対立

 これは、以下で紹介する「制度論理(Institutional Logic)」や「ミッションドリフト(Mission Drift)」の研究で示唆されている。経済、社会、自然環境のそれぞれに貢献することを目的とした組織や集団は異なる「制度論理」を有していると議論されている。制度論理とは、社会的に構築された、物理的慣習、仮定、価値観、信念、およびルールの歴史的なパターンと定義され、これらのパターンに基づいて個人は時間と空間を整理し、社会的現実に意味を与え、物質を再生産する(Thornton & Ocasio, 1999; 2008)。制度論理は、何が正統であり、何が適切であるかを規定するものであり(Lounsbury, 2007; Thronton & Ocasio, 2009)、例えば経済利益の追求が適切であるという領域と、自然環境への貢献が適切であるという領域と、社会課題の解決が適切であるという領域で、異なる制度論理が存在する。

 そして、これらの領域の制度論理は容易には変えられず、近年では複数の、時に対立する制度論理に組織は直面することがあると指摘されている(Pache & Santos, 2013)。例えば、経済利益の追求と自然環境の保持や、経済利益の追求と社会課題の解決の双方が求められるのがこの代表例である。


  • ミッションドリフト

 複数の制度論理から生じる複数の要求に組織が応えることは必ずしも容易ではなく、組織は複数の要求の両立に往々にして失敗すると指摘されてきた。例えば、社会と経済の両立や対立については、社会的企業(Socail Enterprise)の文脈で議論されている。社会的企業とは、社会的課題の解決を試みながら、その解決に営利企業の効率性やイノベーション、経済資源を用いる組織であり、組織を支配する社会的論理と経済的論理の対立を特徴に持つ(Doherty, Haugh, & Lyon, 2014; Smith, Gonin, & Besharov, 2013)。近年では、日本でも、社会的企業、ソーシャル・エンタープライズ、社会的企業家といった言葉が用いられるようになっており、いずれもこの定義と同じ、あるいは、類似した概念である。

 既存研究では、社会的企業ではミッションドリフト、つまり組織が元来有していた社会的目的を経済利益の追求過程で見失うという現象があると指摘されている(e.g. Ebrahim, Battilana, & Mair, 2014)。例えば、Jones(2007)は、従来社会的なミッションを追求していた非営利組織が、商業化する過程で顧客に経済資源を依存する、あるいは政府に経済資源を依存するようになり、結果として顧客や政府の意向を組織活動に取り入れなければならず、従来の社会的なミッションが失われるという危険性と、それに対応する必要性を指摘している(Jones, 2007)。

 他にも、例えば、Beisland, D’Espallier, & Mersland(2019)は、貧困層にお金を貸すことを社会的ミッションとしているマイクロファイナンス機関を分析の結果、組織における職務経験を重ねるとリスクが高い貧困層の顧客にサービスを提供することを避けるようになると結論付けている。そのメカニズムについては、貧困層への融資にリスクが存在することを学習し避けることに加え、職務経験が増えると実務上の課題や困難に直面し、従来持ち合わせていた熱意がなくなってしまうためであると説明している。

 同様に、持続的な自然環境を実現するには、経済利益が犠牲にされることもあれば、社会全体のウェルビーイングなどが犠牲にされることもしばしばあるだろう。冒頭で紹介した紙ストローや太陽光発電がこの例として挙げられる。2012年以降、政府の後押しもあり推し進められてきた太陽光発電であるが、地域における太陽パネルの設置は住民のウェルビーイングや要求と対立することもあり、この両立も一つの課題として浮き彫りになっている。



取り組み:持続可能性に向けて必要とされるアプローチ

 以上を踏まえれば、持続可能性を実現する上では、社会と経済の対立、自然環境と経済の対立、自然環境と社会の対立をいかに解決し、いかに相互の取り組みを強化し合うものとできるかが肝要である。このことは、しばしば組織が複数のゴールを追求できるかという文脈で議論されており(Battilana & Lee, 2014)、場合によっては一つのゴールの追求が他のゴールの追求に寄与する可能性も示唆されている(Svensson, Ferro, Padin, Varela, & Sarstedt, 2018)。例えば、組織の経済活動が自然環境に(Svensson et al., 2018)、あるいは組織の経済活動が社会貢献につながることがあるとされている(De Vicq, 2022; Cozarenco, Hartarska, & Szafarz, 2022)。 


  • 長期的視点からの組織のマネジメント

 しかしながら、組織活動という文脈では、一般に組織の情報開示や組織のイメージのマネジメントという観点から持続可能性に向けた取り組みが議論されおり、いかに経済、社会、自然環境の間に存在する対立に対処し、いかに両立させ、時には相互に強化しあうように複数の取り組みを行うのかについて十分に議論されていないように思える。確かに、持続可能性に向けた取り組みについての情報開示を求めることで、組織の長期的存続という長期課題を、組織に対する評価という短期的な経営課題に落とし込むのは、持続可能性の実現に向けた取り組みの一つではありうる。短期的な経営課題のほうが追求しやすく、追求するインセンティブが存在すると考えられるためである。しかし、この方法では必ずしも持続可能性の実現に伴う対立に対応し、経済や自然環境、社会の持続性の並立を達成できるとは限らず、長期にわたる持続可能性が実現できるかには疑問が残る。

 むしろ、組織の長期的視点が持続可能性に関連するイノベーションにおいて重要であり、トリプルボトムラインにおいて存在する対立を和らげることに寄与すると指摘する研究も存在し(Longoni & Cagliano, 2018)、短期的なものに落とし込まれた課題に対応するのみならず、長期的視点から自ら持続可能性を実現する取り組みを主体的に行う必要があるのかもしれない。


  • 組織に必要な資源の再考

 特に長期的視点に立脚しながら、長期にわたる組織活動に必要とされる資源を考え、従来の組織において重要とされる資源について再考することも必要であるかもしれない。Tate & Bals(2018)は、従来からマネジメント研究において存在する、組織の競争優位に寄与するとこれまで考えられてきた技術やサービスなどの資源に着目する資源ベース理論(Resource-Based View)や、近年議論されている製品のライフサイクルや環境へのインパクトに対する配慮などの資源に着目する自然資源ベース理論(Natural-Resource-Based View)に加え、社会的ミッションの継続的な追求やソーシャルイノベーションなどの社会的資源に着目する社会資源ベース理論(Social Resource-Based View)を構築している。特に、Tate & Bals(2018)は、このような議論から、個人が持つ社会的ミッションなどの個人の要素が組織の社会的責任において重要となる可能性を指摘し、個人に着目した分析も必要であると後続研究に向けた提案を行っている。このように、組織に必要とされる資源を従来の枠組みを拡張する形で再考し、自然資源や社会資源がいかに組織活動に寄与することができるかを考えるのがまず必要とされるだろう。


  • 組織の事業機会としての社会課題や自然環境の課題

 その上で、これらの資源を活かし、社会や自然環境にある課題をいかにビジネスを通じて解決するかを考えることも有用であると考えられる。ビジネスは社会のニーズに応えることでその対価を受けるものであり、それを踏まえれば自然環境の課題や社会課題も例外ではなく、ある種の事業機会として捉えることができる(Drucker, 2008)。これに着目しているのが、社会的企業やソーシャル・アントレプレナープ、あるいはグリーン・アントレプレナーシップという組織や、それについての研究である。日本においても、社会的起業家といった言葉が近年見られるようになっており、社会課題や自然環境の課題が、組織にとっての脅威であると同時に機会でもあるという考え方が、徐々に認識されるようになっているのかもしれない。


  • 組織の人材のマネジメントなどの具体的施策

 既存研究はより具体的に複数の目的の追求を両立する方法を提案してきており、複数の目的を追求する組織(より厳密には複数の制度論理に面し、複数の論理を持つ組織)であるハイブリット組織(Hybrid Organization)という概念を用いて、多くの議論がなされている。例えば、Battilana & Dorado(2010)は、従業員の雇用やマネジメントに着目し、持続的に複数の目的を追求する方法を検討している。雇用については、個々人が既に持っている能力に着目し、組織が追求しようとしている複数の目的に寄与する能力を有している個人を各目的に合わせて雇用するという組み合わせアプローチ(Mix-and-Match Approach)と、個人の他の個人と積極的に関わることができる可能性を重視し、目的に寄与する経験を必ずしも持たない個人を雇用するタブラ・ラサ・アプローチ(Tabula Rasa Approach)が存在する。確かに、直感的に分かる通り、前者のアプローチでは組織の素早い成長が実現されるが、意外にもこのアプローチではじきに組織内で対立が生じてしまうと指摘されている。その一方で、後者のアプローチでは対立が生じず、個人間で共通のアイデンティティを構築することが可能であり、長期的に複数の目的を追求できると示されている。また、いかに組織のコミュニケーションやトレーニング、昇進やインセンティブシステムなどを設計するかに関するマネジメントについては、組織活動の目的追求に焦点を合わせてこれらを設計する場合は異なる考えを持つ複数の集団が形成され、その結果として対立が生じてしまうが、その一方で、組織の目的追及の手段に焦点を当てた場合は、その手段に基づく共通のアイデンティティが構成され、持続的に複数の目的を追求することができると論じている。つまり、必ずしも共通の目的をもって組織構成員を束ねることが望ましいとは限らず、従業員に共通の手段を持たせ、この手段に焦点を合わせたマネジメントが望ましい可能性があることを示唆している。


  • 組織間の協調

 また、トリプルボトムラインはIsil & Hernke(2017)によると、持続可能性を組織レベルの持続可能性に還元できる、すなわち組織レベルそれぞれで持続可能性を実現することが、世界全体の持続可能性に寄与するという考え方は背後にある。しかし、これは必ずしも望ましい前提ではない。近年では、複数の組織による集合的取り組み、及び、組織間の利害関係や協力関係の調整が必要であるという考えも研究に反映されている(e.g. Kwong, Tasavori, & Cheung, 2017)。例えば、非営利組織、営利組織、政府の間の協働はこの一例であろう。そのため、いかに持続可能性を実現できるかについて議論する場合は、単一の組織ではなく、組織の集合がいかに役割分担や利害関係の調整を行い、その結果として複数の異なる強みや資源を組み合わせ、弱みを補うことで、持続可能性を実現できるかを考える必要があるだろう。


  • 世代を超えた継承と革新

 最後に、長期に渡る持続可能性の実現は、長期的取り組みの維持が必要不可欠であり、その維持は一世代を超えるものである。世代を超えて、持続可能性に向けた取り組みや、その取り組みの背後の価値観を継承する必要がある。これは、一度解決した課題が再度生じないという意味でも重要だが、なにより短期間では解決できない課題を、過去の取り組みの上に新たな取り組みを蓄積することで少しづつ解決するという意味でも重要である。その一方で、各世代ではその時々で新たな課題に直面し、過去を異なる視点で解釈し、これまでとは異なる未来を予見するようになり、取り組みを刷新する必要性も現れるだろう。そもそも何が適切であり、何を目指すべきかという評価も根本的に変化することもありうる。このような継承と革新の対立も、持続可能性を考える上では重要な課題である。

 そのため、社会の方向性について往々にして決定権を持つ上の世代から下の世代への継承、新たな課題にしばしば直面する下の世代から上の世代に向けた革新の双方が必要であり、この両輪が不可欠であるように思える。その意味では、上の世代が下の世代を教育するという視点も、上の世代が残した問題を革新を通じて下の世代が解決するという視点も不完全であり、上の世代と下の世代の継続的な協調と双方向のやり取りが必要なのではないだろうか。

 持続可能性と直接関連した議論ではないが、ファミリービジネスの研究は、革新と継承のバランスの重要性を鮮明に映し出してくれる。例えば、Erdogan, Rondi, & De Massis(2020)は、組織に刷り込まれた伝統は組織のアイデンティティを形成し、組織の一貫性を保証するが、その一方で、組織が競争するためにはしばしば伝統を変化させ、変化やイノベーションを実現する必要があると論じている。このパラドックスに対し、Erdogan et al.(2020)は、伝統と保持、あるいは復活させながら、これとは独立して変化を実現する、あるいは伝統と両立する形で変化を実現することをいくつかの事例を提示しながら提案している。



むすびに

 本記事は、トリプルボトムラインの枠組みを紹介し、その枠組みに基づいて、いかに持続可能性を実現できるか、実現に向けて必要とされる一部の課題を取り上げた。それには、複数の目的を同時に追求するという課題、組織間で協調するという課題、そして、世代間の協調という課題などが含まれる。

 私見ではあるが、同時に考えるべき課題の一つには、そもそも持続可能性がなぜ重要であるのかということである。確かに、持続可能性の実現には一部の組織や個人による主体的な取り組みが必要だと考えられる。しかし、同時に、経済や社会、自然環境の間の対立を超克するこのような主体的取り組みに、社会の構成員全体が関心を持ち、個人、組織、そして社会に対する監視や評価、期待の視点を形成することで、このような超克する取り組みを後押しすることも必要であるだろう。例えば、消費者の持続可能性に対する意識は、欧州と比べれば日本は低いと指摘されることもあり、個人や組織に多様な資源を提供する個人の集合的意識が持続可能性の実現において一定の重要性を持っていると考える人も少なくないと思われる。しかし、日本では必ずしも社会全体で持続可能性の重要性に合意がなされているわけではなく、無関心である人も少なくないかもしれない。特に、社会、経済、自然環境の対立という観点で持続可能性を考えている個人も比較的少ない可能性がある。そのため、持続可能性の追求や関心を当然視するだけでなく、その重要性から議論することも必要であるかもしれない。

 この重要性についても、持続可能性とは何で、どのようなアプローチを取ることが適切であるのかと並んで、世代を超えた議論において議論することが必要である。



 


参考文献

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